京都青年 2005年9月号


福祉を担う人として ~福祉人材養成に求められるもの~

京都YMCA国際福祉専門学校は、健康と福祉の専門職の養成を目的に、健康福祉・介護福祉・社会福祉学科の3学科で人材養成を行っています。豊かな人間観を形成し、また現場に必要な人材を育成するには、何が必要でしょうか?社会福祉法人の現場を永年経験してこられた社会福祉法人同胞の家園長である佐藤剛氏にお聞きしました。

加藤:佐藤先生には学校の専門委員を経て京都YMCAの正会員になって頂き、春より学校の評議員に就任して頂いてますが、まず先生とYMCAとの関わりについてお聞かせください。
佐藤:私の兄が若い頃ずっとYMCAのリーダーをやっていまして、兄がいつも「Yへ」と言って出かけていくのです。そのころYが何のことかわからなかったのですが家に帰って兄がいないとYに行っていると言うことで、YMCAに対しては「Yへ」という言葉でなじみがありました。それと丸太町教会がYMCAと関係の深い場所でもありますのでそんなこともいきさつです。その後、息子がYMCAの専門学校にお世話になったり、色々な所でYMCAに突き当たるのです。
加藤:先生がもともと福祉に進まれるきっかけはなんでしたか。
佐藤:同志社の大学院に行ったのも、大学が経済学部だったので、このまま福祉の世界に入っても通用しないだろうし、勉強して現場に入る自分の素質を作らなければならないと思って進学しました。
学部で経済を学ぶ内に、人の問題を考える社会保障に興味が湧きました。また厚生経済学という分野があり、同志社で嶋田啓一郎先生からそれらを学ぶなかで社会福祉に出会いました。そして、学生時代に人形劇や影絵のセットなどを持って京都府下を回ってお年寄りや子供たちと触れ合うようなことをやっているうちに、福祉をやるなら児童福祉から始めようと思いました。そこで大阪水上隣保館に行き、中村遙先生にお願いしましたら、即決で採用となり学校に籍を置いたまま就職しました。ある時、中村先生から保母さんが足りないので保母さんの学校を作るから手伝いなさいということを言われまして、今のキリスト教社会福祉専門学校を立ち上げることになりました。その後介護福祉士の学科を作るところまできて、もうここでの仕事はなくなったかなと思っていたら同胞の家をやる人がいないかということでこちらに移って参りました。
加藤:ずっと現場から見てこられて、これからの福祉の人材にはどのようなことが必要とされるとお考えですか。
佐藤:うちは現場に恵まれていましてあまり人材のことは考えないのですが、資格や学歴をあまり重要視していないのですが、やはり明るい人がいいですね。きちんとした言葉遣いとマナーでしょうか、好感が持てて清潔で元気な人ですね。見た目がそのような感度の人は現場でもいい感性を表わしてくれます。

知的障害者施設 同胞の家(宇治市)

知的障害者施設 同胞の家(宇治市)

加藤:以前お伺いした時、同胞の家では職員をよく研修に出したり資格をとらせていると言っておられましたが。
佐藤:そうなんです。職場で皆資格を取りますね。社会福祉士も社会福祉主事も。「勉強してや」といって皆取れるようにしています。費用も全額負担してあげるようにしています。それでないと口だけになりますから。
加藤:そこまで先生が積極的に支援されるのはなぜですか?
佐藤:施設は職員のためにあったり、施設のためにあったり、働く人のためにあったりということから逃れられないのですね。口では利用者のためと言っても、やっていることの実際はいつも乖離があってね。そこがしんどいところで、でも何とか利用者を一番に、そして次は職員が研鑽をすることを心がけています。そしてもうひとつは地域から愛される。地域の人からかわいがられる。これが大きいのですけれどね。これら一つ一つ意味深いことだと思うのですが、私は、利用者が園でしてほしいことは最優先でしろと言っています。しかもすぐしろと言っています。できるかできないか、ぼくがすぐ判断するからと言ってあるのです。そのため事業費がものすごく出て行くのですが、ぼくは足りているお金であれば全部使ってやろうと思っているのです。
加藤:運営上それを実行することはなかなか難しいことだと思いますが。
佐藤:私は利用者がそういう要望を出すことをチャンスだと思っています。私が何をしたらよいか、利用者が教えてくれたと思っているのです。  みんなは知恵遅れの人が言っているからと一旦置くけれど、私は主人公である彼らが言っているのだからすぐしてやってと言っています。
加藤:先生から見てYMCAの福祉の分野での働きは人材養成も含めてどのようなことができるのか。可能性も含めてお話いただけますか。
佐藤:難しいですね。私も前の職場が職員養成ということで、やはり現場を支える人を送り出す、しかもそれをミッションをもって行えるということで、どこか縁の下の力持ちをさせてもらおうということでやってきたわけですが、やはり、YMCAも同じだと思います。実学をして、かっちり現場で役に立つ人材養成をしてくださることはものすごく大事なことだと思っていますし、それが、特にキリスト教のミッションを背負ってそういうことができるということは、申し分ないといつも思います。

* * *

加藤:先生のお話をお伺いしていると、学校もまず学生のためにやっていかなければならないのですが、実際はなかなかできないことが多くて難しいなと思います。
佐藤:実際はそれが悩みなのですけれどね。でも専門学校は即戦力養成の大切な場ですし、大学を出た人が必ずしも即戦力ではありません。
私は現場にいて今でも思いますのは、いろいろな人が実習に来ますが、長くても一ケ月位で、何がわかるのだろうなと。私は16年いてもわからない。彼らはひょっとしたら上っ面だけを見て誤解して出て行っているのではないだろうかと。本当に即戦力をつけるにはインターンシップとして1年くらいかけて実習しないとわからないですね。実際はカリキュラムからいくと無理なのかもしれませんが。
しかしそれでも力量を持った人は、身のこなしが違いますね。私はソーシャルワーカーというのは、身のこなしを見たら一発でわかると思っています。その時々の状況判断をしながら動ける人はいいですね。惚れ惚れするような身のこなしをする人がいます。施設の現場は、身のこなしかなと思います。また、この身のこなしができる人というのは年齢と関係がないのです。
加藤:そういう人たちはそれまでの過程でどこがちがうのでしょうか。それは経験ですか。
佐藤:やはり経験でしょうね。優れた価値観を有しておられ、そこに技術が伴っているということでしょうか。価値と技術。それはまた私の目標でもあります。施設長なんていうのは自分に返ってきますから。自分ができていない、では発言権も無いですし。
利用者の前に立つということは、畏れとおののきのようなものが自分の中から消えてはいけないと思っているのです。彼らは畏れるべき人なのだという存在。障がいをもっているから何か仕打ちを受けるような人ではなく畏れられる人なのだということを自分が先頭に立って訴えていかなければいけないと思っています。
加藤:そのようなお話を聞くと施設の運営方針がよくわかりますね。利用者を本当に大事にしておられるのが。
佐藤:職員がすぐいろんな企画をもってくるのですが、私は「みんなの声を聞いたか」と聞くのですよ。その結果、計画が振り出しに戻ることも多いのです。ついやっちゃうのですね、彼らはできない人なのだという位置付けをしてしまって。障がいをもっていようがいまいが彼らは一人の重みがあるのだ。彼らにも一票の重みがあり私にも一票の権利があり、一票は一票なのだと。だからそういう重みを彼らから感じられなくなったらもうおしまいです。 気をつけなければならないのは、言ったってわからない、ひょっとしたら叩いたってわからない。誘惑の多い世界ですから、私は誰かひとり手を出したらうちはもう解散って言っているのです。

同胞の家にて2006年度のカレンダーをシルクスクリーンで印刷しています

同胞の家にて2006年度のカレンダーをシルクスクリーンで印刷しています

加藤:でもそれは基本的なことですけれど大事なことですよね。
佐藤:私達の世界では障がい者の人権侵害の話がたくさんあります。私は、やってはいないと思っているのですが、でも人間皆一緒で、自分にもいつも降りかかってくる要素なので、私には絶対無いとは豪語できません。障がいを持っている人は僕らを謙遜にさせます。
加藤:昨今障がい者福祉の制度が大きく変わってきていますが、今後の福祉の方向性としてはどうなっていくのでしょうか。
佐藤:障がい者福祉の制度は大きく変わってきていますが、この制度で終わりではないし私達は一時期を担ったというだけのことだと思います。だからまた様変わりしていく。ただ、方向としては良くないですよね。財政の事情で人がないがしろにされていくようなところがあります。私は、制度が変わっても見通しが立つのだよと希望を与えてあげれるような施設長でないといかんと思っています。21世紀はいろんなものが錯綜してしんどいですが、逆に人が人にやさしくなれて、みんなが労わり合いかばいあうのが21世紀だと思っていましてね。
加藤:そういう社会を作っていかなければいけないですね。
佐藤:障がい者福祉の世界は1981年の国際障害者年からたった20年位しか経っていないのですね。ようやく障害者の存在が社会の中で認知され出したわけで、幼児教育の明治以降100年の重みに比べて20年くらいの駆け出しの事業でして、まだこれから仕上げをしていかなければならない長い入口に立っているわけですから、私はあまり失望はしていないのです。
加藤:そのような先生の後を継ぐ人を、育てていかなければならないのではないでしょうか。
佐藤:ただね、人材の話が先ほど出ましたが、私は中村遙という人間を懇切丁寧に見て働いてきましたが、やはり授業しただけでは人は育たないのですね。その人から盗もうという、盗む力をもたないと。そしてそれをすぐは自分のものにならないけれど、少しずつ自分の中で育てるそういう力がものすごく必要ですね。だから私は施設であまり演説はしないのです。いろんな人と出会って盗んでいく力がいるのですね。
加藤:確かに今はそのような部分は少ないかもしれませんね。習ったことを教科書に書いてある様にやれば良いというようなところがあるのかもしれませんね。
佐藤:ですから、私も記録などをたくさん読ませてもらいますが、表面的ですね。もう少し自分を見るというのがソーシャルワーカーの一番の訓練だと思うのですけれど、自分を見つめる訓練ができていないですね。
私は、同志社でドロシーデッソーという先生にケースワークを習いました。いつもその先生に叱られていたのですが、その先生から人を援助する人はいちばん援助されなければならない人だというのをものすごく教わりましたね。
援助というと、することばかり言っていますけれど、相談に乗っている自分がいちばん相談と援助を必要としている。本当は一番援助されなければならない人であるという自覚を持たなければならない。
そのわきまえも要りますから、特に精神障害の人たちに変に善意と親切と配慮で関わりますと混乱させてしまいますね。挙句の果てにその人の人生を台無しにしてしまう事例もたくさん見ますので、相当トレーニングされていないとね。
加藤:福祉の人材養成はそういう怖さもありますね。その人が現場でどのように利用者に関わっていくのかと思うと。
佐藤:でも、最初わからなくても徐々に体得していく部分はあり、間違っていた自分を発見していきますから、育てられていくのだと思います。あせってはだめで私は10年くらいかかると思います。
それには先輩も後輩もありません。いい仕事した人が評価されていくわけですし、評価してくれるのは他人ですから。
加藤:先生、今日はいろいろと示唆に富んだお話ありがとうございました。
(お話) 学校法人京都YMCA学園評議員 社会福祉法人同胞会 同胞の家園長 佐藤 剛氏
(インタビュー) 京都YMCA国際福祉専門学校 副校長 加藤 俊明

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「平和のつどい」
~アジアから見る日本のNGOの働きと日本政府の働き~

会員委員会  前 登

 2005年8月5日(金)午後7時より、京都YMCA三条本館にて「平和のつどい」が、約30名の参加者を得て開催されました。この「平和のつどい」は、多くの方々と共に毎年8月に平和について考える機会を持つため、会員委員会が主催して様々な内容を企画しています。
今年はIPHC(国際民衆保健協議会)及び「自衛隊イラク派兵差止訴訟の会」代表で南山大学講師でもおられる池住義憲さんをお招きし「アジアから見る日本のNGOの働きと日本政府の動き」と題して講演いただきました。
今年は戦後60周年を迎え、日本の各地域で様々な行事が実施されています。特に日本は世界唯一の被爆国として、これまでや将来にわたってのあり方を問い直す大変良い機会であることは間違いありません。
池住先生の講演では、現在イラクで起こっている紛争の説明や、「もし日本が攻撃されるならどこに逃げるか」など池住先生から投げかけられた8つの質問を一つひとつ参加者自身が考えていきながら、平和に対する考え方を深めていきましたが、非常にわかりやすい内容で皆真剣に聞いていました。特に「武装と非武装のどちらが他国に攻撃されやすいか」という質問に関しては、それにかかわるコストも含め、明快に解説していただきました。
人類の歴史は戦争の歴史と言っても過言ではありません。近代になりその武器が強大な破壊力を増すと、その戦争による犠牲者が一般人も含め大量に発生します。ある意味では近代の戦争は古代・中世の戦争より野蛮で非人道的な結果を必ず伴うことになります。ドイツのホロコーストや南京虐殺にはじまり広島長崎の原爆も、大量虐殺といって間違いないでしょう。そのような行為が正当化される世界ではいずれ人類は滅びてしまうに違いありません。近年のイラク戦争やテロリストの報復、そしてイスラエルパレスチナの紛争もすべて同じ線上です。こんな人類の未来はどうなっていくのでしょうか?人類の行動に進歩が期待できるのかと、疑問を抱かざるをえません。過去や歴史に大いに学ぶことと同時に人間の本質をも理解して行動をすることが、これからの人類の未来を左右する鍵なのではないかと一考してみました。
最後に貴重な講演をいただきました池住先生と、この平和の集いに参加していただきました会員の皆様や若いリーダーの方々にこの紙面をかりて感謝をいたします。

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お父さんと子どものアウトドア報告

7月2日~3日の一泊二日。京都キャンプ協会の岡本ヒロシさんを招いて開催されました。あいにくの雨模様の中でしたが、お父さん14名、子ども達16名の参加がありました。
一日目にはどんぐり笛と紙飛行機作りをし、夕食後には楽しみにしていたホタルも見ることが出来ました。子ども達が寝た後に、お父さん方にアウトドア、キャンプグッズの紹介と選び方の話がありました。それぞれが持ち寄ったアルコールも入り、アウトドアの話から、子育て、教育談義と今日会ったばかりとは思えない程話が弾みました。
二日目、参加者全員で作る昼食のダッチオーブンを使った鶏の丸焼きと、ポリプロピレンの袋に食材を入れて鍋で湯がいて作る焼きうどん、五平餅は火加減が大変でした。薪を燃やし、炭をおこしての調理で、頭を灰で白くし、煙で涙し汗をかきながら悪戦苦闘の最中に誰かが、「子ども呼ぶの忘れてる」。「付き添いのつもりで来たのに私の方がついつい本気になって楽しんでしまいました」と、お父さんが話されたのが印象的でした。
今回で3回目となるプログラム「お父さんと子どものアウトドア」は、お父さんと子ども達が共通の時間を持ってもらうことと、お母さんには、子ども達抜きのゆっくりとした時間を作ってあげる目的もあります。いつもはお母さんといる時間の長い子ども達も今回の体験でお父さんをたくましく感じた事でしょう。解散式では、たくさんの子ども達がお父さんの膝の上に乗っていました。

お父さんと子どものアウトドア お父さんと子どものアウトドア

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