京都青年 2007年1・2月号


YMCAの願い

京都YMCA 総主事 神崎清一

神の御恵みのもと、皆様には新しい年をお健やかにお迎えのこととお慶び申し上げます。

京都YMCAは創立以来一貫して「自由平等」「平和共存」を基調として歩み、いのちあるすべてのものが共に生きる平和な世界を築く運動を展開することを使命として、「いのち」を守り、「人」を育むことに取組んでまいりました。新しいこの一年が、その具現化への更なるSTEPの年となりますよう、ここにあらためて意を強くするものであります。

「いのち」の重さには、年齢、性別、職業などによる差はなく、勿論、国や地域、言葉や文化、宗教、価値観によって異なるものではないことを、発会以来118年にわたって様々な事業やプログラムをとおして、会員・生徒の皆さんとその具現化に向けての歩みを続けてまいりました。また、京都の地にあって、教育、青少年育成、国際、福祉、ボランティアそしてキリスト教をはじめとした多くの宗教の団体組織や行政機関の方々と協働しつつ、その時宜に応じた活動を展開してまいりました。
今日の社会では、これらすべてのことが益々重要となり、私たちYMCAの働きが期待されています。現代社会を構成する私たち一人ひとりの生き方が問われている時代なのではないでしょうか。現在から未来へと繋がるの社会をどのようなものとして形成するのか、「青少年」「家族」「福祉」「平和」「国際」「生きること」などの課題解決に向けてどう取組むのかを、私たちの問題として向き合うことが求められているのではないでしょうか。

今まさに、京都YMCAは全国のYMCAと共に、これまでの取組を明確にし「YMCAの願い」として、各事業・プログラムにおいて、更なる広がりと実現に向けて推し進めています。

新しいこの2007年におきましても、YMCAに連なる多くの皆様方と歩むことができますことを心より感謝しますと共に、「平和な社会の実現」をめざし「人を育む」YMCAをご支援いただきますようお願い申し上げます。

YMCAの願いYMCAでは活動を通して次のことを学びます。
「自分のいのちとみんなのいのちを大切にすること」
「世界、地域のひとりとして責任があること」
「世界と地球を見つめ、考え、行動すること」
「ボランティア精神とリーダーシップを身につけること」
「すこやかな心とからだを育むこと」 YMCAでは、これらを実現するために、
「思いやり」「誠実さ」「尊敬心」「責任感」を すべての場面で大切にしています。

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「心がまん丸でいられるように」
~YMCA軽度発達障がい児プログラムへの取り組み~

京都YMCAをはじめ、現在全国のYMCAで軽度発達障がい児プログラムが広がりを見せています。そこで、奈良YMCAでサポートプログラムを担当し、京都YMCAのプログラムにも関わっている金山好美さんに、その取り組みについて紹介していただきます。

金山 好美
(奈良YMCA軽度発達障がい児サポートプログラム「らぽーる」講師)

「この子、鈍くさいなぁ!」「空気読まれへんなあ!」「自分の好きなことばっかりしやべるなぁ!」このような会話は、大人は日常茶飯事に子どもに使っている言葉であり、聞いている側も「またか・・・」というぐらいにしか思っていないことがよくあります。

しかし、子ども自身は「こんな自分をどうしたらいいのか?」と悩んでいます。どうしていいのかわからないうちに、先生に叱れられ、友達に馬鹿にされ「自分はダメな人間なんだ・・・」と自分を見失っていく。その要因のひとつに「発達障がい」が考えられます。一見ごく普通で、友達と仲良くし、勉強もみんなと同じように取り組んでいるようですが、実は感じ方や捉え方が他者とは異なり、周囲からは「変わった子」としてのレッテルを貼られやすくなります。

そのような子ども達は、単に「しつけが悪い」や「行儀の悪い子」というのではなく、認知的な特性があり個別の教育が必要です。子ども達が「自分らしさ」や「自信」を掴むには、個人にあった「できた感」を積み重ねていく必要があります。「できた感」つまり安心して体験する事で、自信を失いがちな子ども達が「自分」をポジティブに評価できる環境を作ること、それがYMCAのサポートプログラムの使命だと感じています。

YMCAのSST(ソーシャルスキルトレーニング)クラスにきているA君の話です。クラスの振り返りで「約束が8個あるうちの6個以上守れた人には、金色シールをあげます」という案内をしました。普段は自分の興味のある話を延々とするA君ですが、人の話を聞き取り、理解するのは苦手です。約束の○をつけていくときは「ぼくできた!」と嬉しそうに確認し、リーダーも「できてたよ!よくがんばったね!」と誉めていました。A君は「認められている」というのがわかると、出来なかった所も「これは出来なかった」と認めることができます。ところが○を数えると5個だったので「金色シール」はもらえません。リーダーが「残念だね!今度は6個以上もらえるように頑張ろうね!」というと、A君はそこで始めて「金色シール」がもらえない事に気づき「こんな紙、こっぱみじんにしてやる~!」と言って、○をつけていた紙をビリビリに破いてしまいました。

A君は本当に「こっぱみじんにしてやる~!」ということが言いたかったのでしょうか?A君は一暴れした後、今度は大きな声で泣き出し「本当は金色シール欲しかってん!」言いました。A君が素直に自分の感情を言えた瞬間でした。リーダーも「そうやなあ、欲しかったよなあ!よう我慢したよなぁ!今度は絶対にもらえるように頑張ろうな。」というと、A君は安心したように泣き止んで帰っていきました。そして次の週には8個の約束全てに○が付き「金色シール」をもらうことができました。

発達障がいを持つ子どもは「すぐにキレる」などとイメージされ、「困った子」とレッテルを貼られてしまいがちです。しかし感情を素直に他の人に伝えるのが上手ではないのがわからずに周りの人が叱ったりすると、その子の感情はいつ気づいてもらうことが出来るのでしょうか?暗黙のうちに「こんな僕ではダメなの?」という問いかけをしている子ども達に、私達大人が出来る事は「そんな君でいいんだよ」という言葉がけと、「君が失敗しやすい○○はこうしたらいいんだよ」という具体的な行動指標を示してあげることなのです。自信を持って進んでいく方法を具体的に示し、安心できる場所+人の中でチャレンジしていくという環境を作っていくことが、子どもが素直な気持ちを表現し、笑顔を絶やさないことに繋がると考えられます。

障がいがある子もない子も「楽しい」と感じる事が「学び」への動機付けになります。某大学教授は「楽しいとは、他者との関わりで感じられなければならない」と話しておられました。身体を存分に使い、人と関わる中で良いところも悪いところも認められ、そして出来ていく自分を感じることが「楽しい」と感じる基本になるのではないでしょうか?

そのような考えを土台にして、YMCAの軽度発達障がい児サポートプログラムでは、子どもの行動は「問題行動」だと捉えず、「○○をする時には、△△クンは□□になる」と、現状を認めた段階からプログラムを考えていきます。つまり事前に子どもが失敗しそうな場面や出来なくて混乱しそうな事、或いは自分の感情をどのような言葉で話したらいいかということを、具体的な行動指標を「やくそく」として提示します。例えば人の気持ちがわかりにくく話し合いが苦手な子には「意見が分かれて話がまとまらないと○○が出来ません。これは君にとって損な事になるので、お友達の言い分が我慢できそうな場合は、時には意見を譲ってあげてはどうですか?」等、心で揺れ動くことや先の見通しを見せてあげます。そうすると「じやあ、僕○○でいいよ」という発言が出たり、相手側は「ありがとう」という言葉が自発的に言えたりします。結果、リーダーが「譲ってあげたね!すごいね!」や「“ありがとう”が言えたやん!」と子ども達を褒める事ができるのです。プログラム内容は、通常YMCAが行うプログラムと同じです。子どもが「やりたい!」と思うことはみんな同じです。しかし「リーダーが褒めてあげることのできる環境」を作るためには、一つ一つのプログラムを子どもが自分の力で確実に「出来た!」「わかった!」を感じて行動できることが、最も重要なコンセプトとなります。一回一回の行動や作業は時間がかかりますが、確実に理解したことや思いは子ども達の大きな自信になっているはずです。

再びA君の言った言葉です。「なんかな、心って始めはまん丸やねん。でもな、人に嫌な言葉を言われたりすると、段々とトゲトゲに角が立ってきて、最後には氷柱くらいとんがって爆発するねん。トゲトゲになっている時はな、なんか嫌やねん。」決して「トゲトゲ」になりたいのではなく、そんな自分を誰よりも責めています。「心」が「まん丸」でいられるように、個々を大切に見つめ、子どもを尊重する気持ちで、お互いを喜びと感じられるよう取り組んでいきたいと思います。

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