見えない宝
同志社女子大学 生活科学部 人間生活学科
准教授 小崎 眞
ある失敗
1枚の刺繍されたハンカチが手元にある。数年前、「バングラディシュ―東京YMCAパートナーシップ」プログラム(桜美林大学[前任校]が関与していたプログラム)を通して出会った現地の青年から贈られたものである。現地の文化や学生たちとのプログラムに適合し切れず疲労困憊していた引率者の私を励ます思いで、彼はハンカチをプレゼントしてくれたのであろう。
しかし、当初、全く異なる受け止め方をしていた。そのハンカチが差し出された際、ハンカチに添付されていた値札が目に入り、「おいくらですか?私、買います!」と声を発した私がいた。このような反応を導いたものは何であったのか。私の中に「日本は豊かで、バングラディシュは貧しい」との価値判断が蔓延っていた。その私中心の基準に従い、「豊かな日本人である私は貧しい現実を強いられている彼を援助する側で、貧しい側の彼からプレゼントなど受け取れない。むしろ、貧しい人々からは買わなければならない、お金を援助しなければならない」と判断し、独り善がりの言葉を発した。
対等な関係性を築き得ない姿勢の私に対し、彼はにこやかに応えてくれた。「これは貴方へのプレゼントです。もし、買いたいのであれば、ご家族の為に、ここにある何かを買って帰って下さい」と。それ以後、このハンカチは折に触れ私を問う宝となっている。
「自己中」という困った傾向性
私たちは「自己中(ジコチュウ)」というややこしい欲望に縛られている。自分のモノサシの中だけで、良いもの、素敵なことを判断し、それらを重要な事柄として自分の中に位置づけている。「自分探し」、「個性尊重」、という言葉の下、「自己確立・自己実現」のみが最高のゴールのごとく謳われる風潮がある。確かに、自己を確立し、望むべき自分像の実現を目指すことは、私の生きる価値を高めるのかもしれない。しかし、私だけの自己実現は、私の欲求実現、私の都合に合う事柄のみの実現、私の中で良いものとして判断される事柄のみの実現へと陥っていく可能性がある。
私のモノサシだけに根ざした歩みの到達点は、結局、私だけの都合良い自己実現をもたらし、他とは対等な関係を築けず、他を私の都合で用いたり、切り捨てたりする結果を生み出す。ひいては、自己の世界観における納得、合点のみが絶対視されることになり、不都合なことの前には自分自身が立ち行かなくなる。上述の私に限らず、昨今の事件がその事実を露にしているように思う(「私の会社を時価総額世界一に!」「私が儲けすぎた・・・!」と語り、自社の利益拡大のみを求めた社長たちの事件を想起する)。
見えないものに目を注ぐ
「自己中」という欲望の呪縛からの解放はあり得るのだろうか。聖書は「見えないものに目を注ぐ(IIコリント4章16節)」という視座を提示し、現代の私たちに問いかけてくる。「見える」とは、単に「目に見える」という事実だけを指しているのではなく、むしろ、「分かる、知る、納得する」という事柄をも含んでいる。ゆえに、「見えないものに目を注ぐ」とは、私の「分からないもの、知らないもの、納得のいかないもの」に対し、目を「集中し、留める」ことであり、そこに中心軸を置く事を指し示している。この視座は私たちの価値観の転換をもたらす。見えないもの(不条理な事柄)を中心に据えることは、見えない(不条理)と判断する基準を揺り動かし、その基準自体の再検討を迫る。
2007年度も数え切れないほどの不安や苦悩の出来事が私たちを襲ってくるのかもしれない。しかし、「自己中」の価値基準のみに振り回され、絶望の奴隷となるのでなく、むしろ、私の判断、私の中の「分かる」(納得)、私の都合等から解放された視座を獲得したいものである。不条理な現実の只中にこそ、私たちを真に生かす力を見出す者でありたい。
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軽度発達障害児理解セミナー
京都YMCA三条本館マナホールに於いて、3月3日軽度発達障害児理解セミナーが開催されました。
今年度より教育現場で特別支援教育がスタートしましたが、学校、社会が軽度発達障害児に理解を深めて頂くセミナーを開催しました。京都教育大学発達障害科小谷 裕実助教授を迎え、発達障害理解とソーシャルスキルトレーニング~サポートプログラム~についてお話いただきました。軽度発達障害についての支援の必要性とLD(学習障害)、ADHD(注意欠陥多動性障害)、高機能自閉症・アスペルガー症候群の説明が行なわれ、次に、ソーシャルスキルトレーニングについては、実践的にこどもを取り巻く環境の整備、理解について実例を含め講演をいただきました。保護者及び教育関係者の熱心さが伝わったセミナーでした。みやびワイズメンズクラブ協力により開催されました。
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卒業リーダー祝会
去る3月11日(日)、学生ボランティアリーダーの卒業祝会が行われました。今年は18名のリーダーが卒業いたしました。
尊いお働きに感謝いたします。
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