「心を開く信頼の関係」 ~信頼関係から新たな社会を~
京都YMCA ウエルネス事業部部長 久保田展史
近頃悲しい事件の報道ばかりです。大阪の姉妹殺人事件で夜中に悲鳴が聞こえていたのということです。男がマンションの壁を登るのを見た人もいたそうですが、なぜ通報しなかったのでしょう。都会の「無関心」が明らかになります。個人情報保護法が施行され、個人の情報を厳重に管理されなければならないということと共に、それによって「個人の情報を安易に明らかにしては危険である」という風潮も生れています。つまり日本ではどんどん『個人』が閉ざされて行っているのです。
宇治市で塾の先生が生徒を殺害するという事件がありました。先日、YMCAの大学生のリーダーはどのような基準で採用されているのですか」という問い合わせがありました。「YMCAのボランティアリーダーは子どもたちの活動に純粋に情熱を持った人たちです。一年目のリーダーで春に採用した人も、春からここまで長い期間研修をして育ててきています。週に一回のリーダー会という研修もまじめに参加して、学生の大事な時間をさいて、取り組んでいます。救急法や、子どもの発達、リーダーシップのあり方などの研修では時に我々ディレクターから厳しい指導を受けたりもします。そんな中で投げ出さずにがんばり続けているのです。また活動への動機も純粋でなければならないと常々教えられています。「将来教員になりたいから」などという動機も場合によっては「YMCAの活動はあなたの実習のためにあるのではありません」と注意されることもあります。情熱がなければ続きません。お金を得るというアルバイトとは基本的に大きな違いがあると思います。」「また、私たちは週に一回顔を合わせて、彼らに我々自らトレーニングをして、そして共に活動しています。私達は彼らを信頼しています。それが私達にとって最も大切な基準です。」人間そのものを表すのは、どれだけの研修を積んだ人かどんな点数を取った人かではなく、その人の人柄であり、それによりその人と信頼関係が作れるか否かではないでしょうか。私達はリーダーある彼らと信頼関係で結ばれています。逆に信頼関係がなければこの様なYMCAの活動は出来ません。しっかりした価値観を持ち、自らも確固とした意思と情熱を持っている人。そういう人柄が人との信頼関係を作り出す。互いが互いを信頼し合って作り出してゆく社会こそ大切なのではないでしょうか。
日本の社会は信頼によって成り立ってきた社会であると言われています。それに対し欧米は契約社会であるそうです。人と人との関係が信頼によって成り立たせられない西欧社会は「契約書」という約束の書類がなければ約束が成り立ってゆかないようです。日本も少しずつその様になるのでしょうか。
地域との関係が希薄になり、個人を人前に明かさなくなり、人と人との心のつながりや関係を作り出すことの出来ない社会になり、他人には全く関心がなく、あるいは他人に対して常に猜疑心を持ちながら過ごす地域社会になってゆくのでしょうか。
いいえ我々は将来を担う子どもたちをしっかりした価値観を持った子どもたちに育て、悪を締め出す強い地域社会を作り、互いに互いを信頼する社会を改めて作り出してゆかねばならないはずです。 『強い家族のきずなにより』『強い地域社会のもとに』『強い子どもたちを育て』ようではありませんか。
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青年指導者そして現代の青年は
近頃では子ども達を取り巻く環境が安全も含めて急激に変化しています。
今回は、ボーイスカウトの柳澤理事長をお招きして京都YMCAウエルネス事業部の責任者、久保田主事と現代の子ども達について、そしてリーダーである青年達について対談していただきました。
司会は神崎総主事(※)がつとめます。
※神崎総主事の「崎」の字は、つくりの上部が「立」ですが、一部機種で表示できない可能性があるため、つくりの上部が「大」の文字で表示しております。
神崎「今日はお忙しい中をありがとうございます。 最近子どもをねらった悲惨な事件が続いています。先日も宇治市の塾で殺人事件がありましたが、その直後に保護者から『YMCAではリーダーをどのように研修しているのですか?またどのような基準で採用していますか』という電話がありました。もちろんそれはYMCAに信頼があるからこそ、『子どもを預けるから安心させてね』という問いかけであったと思っています。」
柳澤「私達としては最近では参加者の安全の確保のために指導者の資質を高める研修を行なうようにと各団に指示しています。これまでにやってきた研修に加え、今後は大人としての資質、子どもを育てる上での資質を高める内容を強化していこうとしています。ボーイスカウトは自発活動ですから、団や指導者が自分達で作っていただくようにしています。」
神崎「YMCAも同じですよね。YMCAは会員運動ですから会員の皆さんが主体的にかかわっていただいています。YMCAのアウトドアクラブではどうなのですか?」
久保田「YMCAではメンバーファーストと安全を優先する事を徹底的にトレーニングすることと、様々なケースを想定しての安全管理の研修を行なっています。」
柳澤「この様に自分たちを戒めていかないと社会的な信頼が得られないと思いますね。」
久保田「子どもに関わる指導者としてどういう技量を持ったらいいのかというトレーニングは年間を通じて行なっています。それに加えて青年として自分たちがどうあるべきかを社会の現状を理解、社会にどんな問題があるのかを理解させて、自らの役割を考えるトレーニングを行なっています。」
神崎「ボーイスカウトの場合はいわゆるリーダーと言われる指導者の方は若い世代だけでなく、もっと上の年齢の方もいらっしゃいますよね。久保田さんは今の青年に『問題意識を持ってほしい』と言っているのだと思いますが、柳沢さんから見て今の若い年代をどの様にお思いになりますか。」
柳澤「今の久保田さんの話を聞いて、うちはもっと若い世代を育成していかなければならないなあと思いました。ローバースカウトという大学生年代の20歳から25歳の年代の研修をもっと充実してゆかねばならないと思いました。」
神崎「今の若者は…というのはいつの時代でもありますね。問題を持った若者が増えていますね。すばらしい青年も多いですが、精神的な弱さがあってすぐにくじけてしまう人の数がふえていますね。」
柳澤「平易なことばで表現すると困難を避けている、遠ざかっていくという傾向はみられるようですね。」「我々は青年にプログラム企画に参加させる。もう一つは国際感覚を養う。この二つから取り組んでいます。今、若者が興味を示す分野というのはやはり海外なんですよね。国際プログラムというのを視野に入れさせて、そこに自分たちの企画を引っ付けて取り組ませて行く、それとともに日常活動にも取り組ませるようにしています。それができる様な青年が育って欲しいと思っています。YMCAのリーダーやわれわれの活動に関わっている青年達はそういう意味では貴重な経験をしていると思います。」
久保田「世界に目を向けて行く広い視野というのは青年には本当に必要ですね。」
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環境教育と命の教育
神崎「国際というキーワードは今お話がありましたが、環境というキーワードはどうでしょうか。」
柳澤「ボーイスカウトはスカウトの森という場所を持っているのですがその場所を整備するために下草を刈ったり、育苗などを取り組ませたりしています。また、意識を高めるために募金活動なども行なっています。また清掃活動なども行なっての意識付けを行なっています。また環境に優しいローインパクトキャンプを行なうようにして、たとえば地べたで直接火を焚かないように指導しています。また太陽熱を利用した調理なども取り組ませたり、テントなどを建てる場合も続けて同じ場所に張らないようにさせたりしています。」
久保田「YMCAでも出来るだけ普段は携帯コンロとガスを使うようにしています。直火はキャンプ施設でカマドを持っているところであるとか特定のところでしかやりませんね。我々は周りの環境に目を向ける事、特に生き物の命について考える事を取り組んでいます。観察や生態を見つめに行こうという活動を通して、環境の中でどう生き生かされているのか、私達がどのように関わっているのか、今後関わってゆくのかを考える取り組みをおこなっています。」
柳澤「自然と共生していくというプログラムは進めてゆくことが大事だと思います。野草を料理に利用することから取り組む方法なども行なっています。」
久保田「食べるということは自然のこと生命の事を身近に感じることのできる、インパクトの強いプログラムですよね。」
柳澤「そうですね、生き物をかわいがることも体験させる、そして生き物を食べることも体験させる。」
久保田「その事で私達が生命によって生かされていることが理解できて、生命に対する感謝の気持ちを持てると思うのですよね。」
柳澤「そう、それらの生き物が命を全うする事で私たちを生かしてくれたと考えられると思います。」
久保田「そのような体験でただ単にお腹を満たすのでなく、生きていることとの関連を感じてもらえるのではないかと思います。現代ではお肉はパックされていますし、お野菜もきれいに包装されていてこれが土に植わっていたとはなかなか想像しにくいでしょうから、これらを関連付けてあげたいな、そういう意味でキャンプや野外活動で生活をして行く中で実感していってもらいたいと思いますね。」
柳澤「確かにキャンプ生活というのは『またぎ』のような、自然のものを活用しながら自然を壊さないように人間は生きて行く、そういうものをキャンプの中で取り入れて行けたらいいなあと兼ねがね思っているのです。」
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小グループでの学びとは
神崎「YMCAではグループワーク理論をもって子どもたちや指導者の関わりの中での学びをもってもらうことを柱にしているのですが、子どもたちを育てて行くなかではボーイはどのように考えておられますか。」
柳澤「ボーイスカウトの特徴は班制度なのですね。班長が指導者で班員がその中で育って行くという縦の関係が生命なんですよね。班制度を支えている一つが進歩制度なのです。このことをするとバッチがもらえる、そのことは『認めれる』ということ『ほめられる』ということなんですね。このことは子どもたちの意欲につながります。」「上級の子どもなら地図の磁北線も計算で出したり、年齢が低い子は角度を測って書いたりなど、年齢によっての取り組む方法も違いますし、その事を指導したり決めてゆくのも班長なのです。私はこんな場面を見て班制度ってすばらしいと思ったことがあります。キャンプのときに班長が焚き火の横に座ってあれやれこれやれと座ったまま偉そうに命令してるんですよね。ところがそこに台風がきたのです、そうすると班長が中2ぐらいのスカウトに泣いている初級のスカウトの面倒を見るように指示をして、初級のスカウトの荷物を全部せおって走るんですね。だから小さい子たちも班長を信頼して着いてゆくんですね。」
久保田「やはり同年齢でなく異年齢集団の中で子どもたちが上の子どもから学ぶというのは大切な経験ですね。上の子にとっても大切な経験ですよね。」
柳澤「だから下の子は自分もあんな班長になりたいってあこがれるんですよね、そして班長を真似して大きくなって行くんですよね。昔はその様な近所の子供同士の関係もあったのですが、最近はなかなかそういう体験は貴重になってきましたよね。」
神崎「YMCAではリーダーにあこがれるんですよね。そして将来あのようなリーダーになりたいと子どもたちは思うようですね。今リーダーを希望する大学生にも小さい時からリーダーにあこがれていてリーダーになった人はとても多いのです。」
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体験学習 野外教育の大切さ
柳澤「だから縦割りの関係も大切であるということを意識した指導者を育てることも大切ですね。一から十まで指導するのが指導ではないのですよね。私の学校教育の経験からは学校教育というのは100%を教えて、それプラス演習や実習なんですよね。演習や実習をしなくてもいいんですよね。だからすべて受身になるんですね。与えられないと何も出来ない子どもが育つのです。だから今の学校教育ではもっと『与えるべきもの』と、『実習したり体験したりするもの』とをうまくミックスして教えるようにしなければなりませんね。そうすれば子ども達はどんどん伸びて行くんですね。今体験学習や経験学習を取り入れるようになってきているのは画期的なことですね。」
神崎「しかし現場の先生方は苦労しているようですが。」
久保田「体験を教えるということは難しいことですからね。計画したからといってできるものではないですからね。」
柳澤「そうですね、それはね指導者の持っている資質に関わってくると思うんです。指導者がどれだけ体験しているかということなのです。指導者の資質を高めて行くことも今求められていることなんですよね。」
久保田「体験や経験を積んでゆくというトレーニングが必要です。」
柳澤「今指導者の研修でもグループワークが大切にされてきていますよね。」
神崎「YMCAのリーダーも教育大学の大学生や初等教育専攻の学生たちが多くいて、そういう人たちが学校教育の現場にどんどん出て行ったら嬉しいなあと思っているんです。」
柳澤「ボーイスカウトではあまり教師になったというのは聞かないですよね。多分隠れているんでしょうね。」(笑)
神崎「ボーイスカウトをしていたという先生は良く聞きますよね。でも隠しているんでしょう、絶対に重宝されて役割が回ってきますからね。」(笑)
久保田「貴重な体験を備えた教師ですものね。YMCAのリーダーOBOGも貴重な存在の様ですよ。みんな黙っているんでしょうか?」(笑)
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子どもの伸びそのものを評価して欲しい
柳澤「子どもたちは視野が狭いのですね、だから大人ほど周りが見えない、だから人の痛みを気がつかない、だから思いやりに欠けてしまう、といった図式になると思うのです。やはりもっと子どもたちのものを見る視野を広める事をさせてあげることが大切だと思うのですよ。自分のことだけでなく、人の立場を理解できる子を育てて行く事を努力する必要がありますね。」
久保田「親も自己中心的になる傾向がありますね。それを個性と勘違いしているところがあるようにも思います。」
柳澤「大人の子どもを見る目を変えてゆかねばなりませんね。親が子どもを評価するにあたって、他と比べて良い悪いかではなく、その子にとって良いのか悪いのかで見てあげないとだめですね。その子にとって進歩しているのか後退しているのかを見てあげなければならないですよね。ボースカウトでも体力という評価の項目があります。ソフトボールをどれだけ投げられるかですが、もともと20メートル投げられる子が20メートルなげてもしょうがないんです。10メートルしか投げれなかった子が19メートル投げられるようになった事を評価してあげなければならないんです。」
神崎「大切なことです。」
久保田「努力した事を評価してあげるのですね。」
柳澤「子どもたちがどのくらい喜んで帰ったか、子どもたちがどのように変容していったのかを計って行かねばならないですよね。子どものニコッと笑う笑顔を期待したいですね。」
神崎「私もキャンプの解散の時に保護者に話すのです。子ども達の感じ方はまちまちです。だから子ども達がしゃべるのを待ってあげてくださいというのです。」
柳澤「私は子ども達が帰るときにひとりひとりに楽しかった事を聞くのです。『君たちお母さんの「どうやった?」という質問に答えにくいやろ。今皆が言ったことの中から選んで答えや』っていってあげるんです」(笑)
神崎「どうやった?という抽象的な質問は確かに答えにくいですよね」(笑)
久保田「YMCAの野外活動クラブでは解散前に子ども達に感想や一日の報告をしてもらう時間を持っています。自分のグループの事を発表したりするのですが、子ども達なりに思いを発表することは大切であると思っています。」
柳澤「そうすると子ども達の自分の思いを表現する方法がわかってくるんですよね。」
久保田「ひとり一人が『こんな事を感じた』、または『こんなものを見つけた』という事を発表するのです。小さい声で聞こえない時もありますが、それを保護者の方がニコニコして聞いてあげるという図です。思いを表現する力もつきますし、家庭に帰ってからの話題にもなって欲しいと思っています。また集合時に保護者の方に一日のスケジュール表をお渡ししています。子ども達には内緒ですが、そこには帰ってからこんなことを質問してくださいねなどと質問項目も載せています。」(笑)
神崎「子ども達に貴重な体験をしていただける、大切な場として野外での活動は本当に大切ですね。本日はありがとうございました。」
【対談】 柳澤 傳(やなぎさわ つと) 日本ボーイスカウト 京都連盟理事長
久保田 展史(くぼた ひろし) 京都YMCA ウエルネス事業部部長
【司会】 神崎 清一 京都YMCA総主事
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2005年度 ドームドッジ
京都YMCA 童夢Jr.Ⅰ(ジュニアワン)第3位!
2005年12月4日(日)にナゴヤドームで、22都道府県440チームが参加しドッジボールの大会が開催されました。京都YMCAからは小学生高学年(3~6年生)・小学生低学年(1~4年生)【2チーム】・一般女子・一般の4部門5チームが参加しました。各チームとも日頃の練習の成果を十分発揮し、高学年チームは予選で惜しくも敗退しましたが、一般女子、一般チームは決勝トーナメント進出(1回戦敗退)、小学生低学年の京都YMCA童夢ジュニアは、過去最高の3位(60チーム中)の成績を収めることが出来ました。この大会は、各都道府県よりたくさんの全国レベルのチームが集まり熱戦を繰り広げる大会です。京都YMCAも各チームがチームの意識を高め、上位入賞を目指しがんばっています。ジュニアチームの準決勝敗退時の涙と表彰式の笑顔にはとても感動させられました。この経験が必ず来年の大会にも生かされると思います。これからもたくさんの大会に参加し、たくさんの感動と経験を積んで行きたいと思います。