京都青年 2006年6月号


 

学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、高機能自閉症など 発達障がいのある児童へのサポート -YMCAの活動と特徴-

京都教育大学 発達障害学科
助教授 小谷 裕実

 YMCAの障がいのある子どもたちへの取り組みを紐解くと、実に1953年の神戸YMCAにおける「肢体不自由児キャンプ」に遡ることができます。京都YMCAでも翌1954年、「肢体不自由児キャンプ」が開催され、障がいのある子どもと普通校に通う中学・高校生のグループが誕生し、ノーマライゼーションへの道の模索の第一歩が踏み出されました。
わが国では、昭和54(1979)年に養護学校の義務制が定められ、障がいの重い子どもたちも等しく教育を受ける権利が認められたことを考えると、YMCAの取り組みは保護者の願いに敏感に迅速に、時代に先駆けて進んできたといえるでしょう。
さて近年、いわゆる知的な遅れがない通常の学級に在籍する児童生徒の中にも、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、高機能自閉症などの発達の偏りが認められ、特別な支援を必要とする子どもたちの存在が明らかとなり、文部科学省の調査では6.3%というデータが発表されました。つまり、30人学級では1~2人、どのクラスにも必ず支援が必要な子どもがいることになります。しかし、「自分勝手でわがまま」「やる気のない」「しつけができず育てにくい」・・など、周囲からは困った子どもとして誤解され、幼少時から叱責をくり返し受けてきた子どもも少なくありません。
この子どもたちに必要な支援は、学習方法の工夫、注意力や行動への対応、友人関係への介入など多岐にわたり、加えて保護者の養育支援やカウンセリング、担任へのアドバイス、学校内の支援体制の強化なども欠かせません。学校現場では、大幅な発想の転換を迫られ、障がいのある子どもは特別な学級で教育するのだという、これまでの“障害児教育”の考え方から、通常の学級にいる子どもであっても、必要に応じ特別な支援を行うといった“特別支援教育”へと、理念や体制の転換期を迎えました。このように、発達特性に合わせた工夫や配慮、支援を必要とする子どもたちであるにも関わらず、依然として「特別扱い」をしたくない・されたくないといった周囲の大人の頑なさが、二次的な障害を招き、子どもの問題行動となって現れることもあります。体制などのハード面の整備は進んでも、人の考えを変えるのは容易ではありません。
私自身、小児科医としてこの子どもたちと出会い、保護者や学校の先生方と面談を重ねてきたなかで、子どもと保護者が安心して楽しく過ごせる活動の場があまりに少ないことに頭を悩ませてきました。学習の遅れを何とか補いたい、友だち関係をうまく作れるようにグループ活動に参加させたい、何か得意分野を開拓したいなど、子どもへの具体的な支援の必要性が見えてきても、活動の場が見当たらないのです。
京都教育大学 発達障害学科 助教授 小谷裕実先生 このような要望にYMCAはいち早く応えてきました。1994年、神戸YMCA西宮ブランチで学習障害(LD)などを含む軽度発達障害への取り組みが始まり、今では全国32カ所のYMCAにおいて、学習支援や野外活動など、さまざまなプログラムが行われています。京都YMCAも京都教育大学の学生と共に、一昨年から発達障がいのある子どもたちを対象とした野外活動プログラムを始めてきました。教員志望の学生たちは、子どもたちとの活動を通し、そのすばらしさに触れ、保護者の悩みを肌で感じてくれることで、将来教育現場で率先して支援をおこなってくれるでしょう。子どもたちのニーズに合った、迅速かつ柔軟な発想に基づくYMCAの活動が、現在の課題である地域への啓蒙活動や就労支援にも向き合い、益々発展することを願ってやみません。

▲このページのTopへ

軽度発達障害児理解セミナー 実施いたしました

2006年3月18日(土)、京都YMCAマナホールにて、竹田契一先生(大阪教育大学名誉教授)を講師にお迎えして軽度発達障害児理解セミナーを行ないました。今年のセミナーのテーマは、1.特別支援教育で学校はどう変わるか、2.高機能自閉症・アスペルガー障害への関わり方であり、これらの内容を事例をふまえながら具体的に、竹田先生からご講演頂きました。参加者は保護者、学校関係者、軽度発達障害児の指導に携わる関係者、学生等64名と、実にさまざまな方面からの参加があり、セミナーの関心の高さが伺えました。
セミナーの内容として、平成18年4月から実施される特別支援教育のシステムや、京都市で実際取り組まれている対応、高機能自閉症およびアスペルガー症候群の特徴、対処方法等を具体的に、わかりやすくご説明いただきました。参加者は特別支援教育について理解を深め、高機能自閉症・アスペルガー症候群の子どもたちとの関わり方について学ぶよい機会となりました。セミナーも当初予定していた終了時刻よりも30分近く延長して行われ、約3時間近く、熱心なセミナーが行われました。
京都YMCAでも軽度発達障害児のサポートプログラムを実施しており、今年度は計5回のプログラムを実施しました。自然の中での料理作りや山登り等の野外体験や、施設見学等を通しての社会体験を、子どもたち、リーダーが一緒になって行い、その活動を通して社会性、協調性、共感性を育みました。子どもたちは、それぞれの活動を通して、心も体も一歩一歩着実に成長しています。
京都YMCAは、今後も軽度発達障害児が子どもらしく、健やかに成長できるようなプログラムを実施していく予定です。

軽度発達障害児理解セミナー

▲このページのTopへ

『地域と共に、世界と共に』

ウエルネス事業部主任補佐
松本 邦稔

 京都YMCAで働く機会が与えられてから、4度目の春を迎えました。日頃はアウトドアクラブ、サマーキャンプ、スキーキャンプの担当として日々多くの子どもたちや保護者の方、ワイズメンズクラブの方、会員の方、その他大勢のボランティアリーダーと関わる日々を送っております。
大学生の時に、「人とかかわり、子どもとかかわり、自然とかかわる仕事がしたい」と思い、京都YMCAへの就職を決めたのでした。YMCAを良く知らない方にYMCAは何をしている所なのかと聞かれ困ることがあります。 ある人にとっては「英会話」。ある人にとっては「スイミングスクール」。またある人にとっては「ボランティアの場」。そんないくつもの顔を持つYMCAを一言で説明できないのです。百聞は一見にしかず。たくさんの方にYMCAに来て、見て、関わっていただきたいと日々願っています。
先日ベトナムに行った時、現地で世界中から来ているたくさんの旅行者に会いました。彼らに私がYMCAで働いていることを話すと、ほとんどの方が「YMCAかぁ。もちろん知っているよ!いい仕事だね」といった具合で、そこからどんどん会話か広がりました。「YMCA」という言葉が見知らぬ人と人をつなぐ共通語だったのです。その時、改めて世界中で展開されているYMCAの活動の力強さを実感し、私自身がそのYMCAの一員であることを誇りに感じました。
年齢、性別、国籍、障がいのあるなしなど、一人一人の違いを認め、すべての人に門を開くYMCA。これからも子どもたちの未来のために、私たちの社会のために、地域と共に、世界と共に、歩んでゆきたいと思っています。