京都青年 2009年11月号


“ことば”

京都YMCA国際福祉専門学校
副校長 阿部和博

  京都YMCAでの日本語教育の歴史は1985年から始まりました。国際化の波のなか、海外からの青年たちを日本語教育を通して地球市民に育てようという理念の基に日本語学校を立ち上げ、日本の大学・大学院進学を目指す日本語教育をスタートさせました。現在は京都YMCA国際福祉専門学校の専門課程で留学生は日本語を学んでおり、これまで1,000人を越える留学生がYMCAを卒業しました。近年は特にアジアからの留学生が増え、わが国の留学生政策やアジア人材育成プラン等の流れの中、益々増加してくると予想されます。

 さて、YMCAでは日本の高等教育機関への進学を目指して留学生に日本語を教えていますが、日本語を単に言語として捉えるのではなく、「ことば」として捉えています。「ことば」とは常に変化していくもの、つまり、私たちが日々生活し、生きていくことと共に「ことば」が存在すると考え、自分の成長や周りの文化・習慣・環境によって変化していきます。「ことば」を学び、上達していくことによって日々の移り変わりを感じ、前進している自分を感じ、生きていることを感じることで、毎日を楽しく送れるのではないかと思います。

介護福祉学科・日本語科交流授業
介護福祉学科・日本語科交流授業

 YMCAの日本語教育では「ことばを教えること」を「生き方を教えること」と考えています。我々の専門学校にはアジアを中心とした留学生以外にも福祉を学ぶ日本人学生も在籍しており、多文化共生コミュニティが出来上がっています。図書室や自習室の使い方、お昼休みの過ごし方、先生とのコミュニケーションの取り方などを観察していると本当に多種多様です。どちらかというと日本人学生が留学生のバイタリティに押され気味です。そのような状況でお互いどのような連帯を築くのか、そこには新しい文化が生まれてきます。

 多文化が交わってできる新しい文化と新しい連帯感、そして学生の変化、これこそがYMCA国際専門学校の多文化共生教育といえます。

日本語科授業
日本語科授業

 先日、こんな光景を見ました。電車に乗っていたところ、初老の男性が車内に乗り込んできました。ドア付近に座っていた若い女性二人がすぐに立ち上がり、席を譲っていました。二人はつり革を持って何やら話しています。その話し声は中国語でした。おそらく見かけからして中国人留学生ではないかと思います。一方、他にも多くの若者が乗っていましたが、ほとんどの方々は自分の携帯電話を触り、時間をつぶしている様子でした。メールという書き言葉を使って実際にはその場にいない人たちとコミュニケーションを取っています。同じ車内のコミュニティではありますが、各々が独立した空間を持ち、同一コミュニティには関心がなく、個別の関係の中でコミュニケーションを取っているように感じ、不思議な感覚を持つと共にすこし、孤立したさびしい気持ちになったことを思い出します。

 情報伝達技術の発達と共に日々、進化を遂げるコミュニケーション方法の中、「ことば」の教育を通したYMCA国際専門学校の役割は国籍の入り混じったこの日本に住む若者にどのような自立と連帯の生き方を提示できるのか留学生から教わり教え、試行錯誤の中これからもチャレンジが続きます。

ボランティアセミナー

ボランティアビューロ専門委員
山田英樹

 10月24日、京都YMCAにて、細井順先生をお招きして『死と向き合って生きる 自らのがん体験をふまえて』の講演会が開催されました。日頃はヴォーリズ記念病院ホスピス長としてご活躍の細井先生ですが、自らもがんの診断を受け、死を覚悟なさった経験をお持ちになっています。

細井順先生

 ホスピス長としての激務の中、自身で病気に対しての確信を深めてゆく過程のお話やご家族とお葬式の話を真剣になさったこと、自らの職業に対しての、前後での受け止め方の違いのお話など、体験を踏まえた数々のお話が、聞き入る私たちの心を圧倒しました。ホスピスという、まだまだ一般にはなじみの薄い特殊な環境での緩和ケアの現状を柔和に、時には軽妙に語られるその口調のおかげで、ずいぶんとソフトな印象を受けますが『治癒して退院すると言うことは無いのです。』細井先生の一言が、重く心にのしかかります。

 20名をこえる参加者の方々皆さん熱心に耳を傾けられました。細井先生のお話もどんどん熱を帯びていき2時間に及ぶ熱のこもった講演はたくさんの拍手のなか幕を閉じました。

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